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住まいの達人インタビュー/インテリアスタイリスト 黒田美津子さん
2021/02/02 00:00

撮影:太田 隆生

アップサイクルしながら次の世代へ繋いでいく、ものとの付き合い方を実践


人気インテリアスタイリストの黒田美津子さんに、自身のブログや雑誌連載等を通して日々提唱されている〝アップサイクル 〟という考え方、また、アップサイクル 可能な家具という視点で、スタイリングの仕事を通してお客様にお勧めする機会が多いというマスターウォールの家具についてのお話を伺った。

インテリアスタイリストの黒田美津子さん。「マスターウォール青山」にて


アップサイクル(UP CYCLING) とは、最近見直されつつある、ものとの付き合い方のひとつ。ものが増えすぎてしまったときに、そのまま仕舞い込まずに、かと言ってむやみに断捨離をするのではなく、また、簡単に手放したり、単純に素材に戻して作り直してリサイクルするのとは、異なる姿勢。〝今の生活の中で生きるようになんらかのアレンジを加えること〟で、そこには、〝生かして繋いでいきたい〟という思いがある。実は、黒田さんの着物をテーマにした新著も、アップサイクル という考え方が根底にあるのだそう。

左:「赤地花模様総絞り長襦袢(あかじはなもようそうしぼりながじゅばん)」昭和初期

右:「水色縮緬地結び文模様小紋(みずいろちりめんじむすびもんもようこもん)」昭和初期 撮影:太田 隆生

「祖母、母親、そして、自分。明治、大正、昭和にかけて、代々引き継がれてきた着物が、自宅の桐箪笥の中に、ずっと保管されていました。年齢を重ねるとともにさまざまな自身や環境の変化があって、〝身じまい〟を意識したときに、この着物たちをどう整理しようかと考えて、本という形にアップサイクルすることにしたんです」。

新刊紹介『tangentー接点』 撮影:太田 隆生

薄桃色の表紙にモノクロームの正方形の風景写真と銀の箔押し、糸綴じの背中をそのまま見せるように仕立てるコデックス装の美しい本。中には、ユニークなデザインの着物の写真とそれにまつわるエッセイ等が散りばめられている。タイトルの〝tangent〟はあえて接点と訳す。過去と未来の繋がり、家族の繋がり、デザインの昔と今の繋がりを意図しているのだそう。「着物を洋服に作り替えたり、生地で袋を作ったりもしていますが、たくさんあるため、すべてそうするのは難しい。そこで、本という形に「アップサイクル」しようと思いつきました。そうすれば、ページをめくるたびに、いつまでも、着物のもつ美しいデザインを、その背景にある家族たちの過ごしてきた日々に思いを馳せながら、眺めて楽しむことができます。だから、あえて、着物の写真は〝普段着〟として着物を着た時のイメージでスタイリングしました」。

黒田さんがアップサイクルして生まれ変わった、古い桐箪笥 撮影:本多 康司

黒田さんは、ほかにも各分野のデザイナーたちとともに、数々のアップサイクル を実践してきた。例えば、漆塗りの茶托を大振りのピアスに生まれ変わらせたり、べっ甲のかんざしをペンダントヘッドにしたり……。また、本業のインテリアの分野でも、古い桐箪笥の表面を整えて染め、新しいスタイルの家具に仕立てたり、本来はキッチンで使うすり鉢を花器に見立てて活用するのも、アップサイクル のうちだと話す。そして、そのどれもに共通するのは、もともとのものが、良質なものであるということ。だから、時間の積み重ねが加わって、さらに価値のあるものに生まれ変われるのだと言えそうだ。「例えば、ウォールナットという素材にこだわるところから始まった上質なマスターウォールの家具なら、ずっと長く使えます。そして、ライフスタイルの変化に合わせてアップサイクルすることも、できると思います」。

黒田さんから見たマスターウォールの家具の魅力は、素材の良さと余計な装飾を削ぎ落としたシンプルなデザイン。和の雰囲気にも合わせやすく、和室に置いてもすっと馴染んでしまうところだそう。「マスターウォールの家具のコンセプトでもある〝100年後のアンティークへ〟の言葉通り、いつまでも大切に使い続けることができる貴重な存在です。時間の積み重ねは簡単には手に入らないし、だからこそ、その積み重ねとともに起こる経年変化は価値を生み出すのだと思うんです。マスターウォールの家具には、その力がある」と思います。

マスターウォールの家具を和室に合わせたスタイリング例(椅子の脚は畳を傷めないように工夫されている)

椅子:DANNA CHAIR/テーブル DANNA LOW DINING TABLE

その証拠に、モダンな表情のマスターウォールのテーブルやチェストに、長い年月を経て味わいのある古い小物を置いても、すっと馴染み、たちまちその空間を上質で品の良い雰囲気にしてしまうと話す。それらが西洋のものでも、日本のものでも、テイストの違いにこだわることなく、そのものの持つ潜在的な力が強いもの同士が、合わさる。それゆえ、不思議とバランスが整う。また、マスターウォールのすっきりと潔い意匠には、古いものに清潔感を与える力があるのだとも教えてくれた。
「人は空間を五感で感じ取っているもの。だから、インテリアが人や生活に及ぼす影響はとても大きいと思うんです。特に、身体が直接触れる椅子やテーブルなどの家具なら、なおさら。上質な素材を使って丁寧に作られた良いものを、アップサイクル しながら、大切に使って、また次の世代へ繋いでいけるといいですね」。


プロフィール:黒田 美津子 Mitsuko Kuroda

インテリアスタイリスト 。1988年「Hanako」(マガジンハウス)創刊メンバーとして雑誌記者に。8年間のHanako記者生活の後、フリーランスとして出版各社の女性誌、デザイン誌を中心に各誌で記事制作、執筆、スタイリングを担当。現在は広告、イベント、展示、商業施設、ホテル、住宅、美術館、レストランのインテリアディレクション、スタイリング、コンセプトワーク、VMDなどさまざまな空間のインテリアと空間演出を手がけている。明るい色調のスタイルミックス提案を得意とし、モダンやアンティークなどさまざまな要素を組み合わせたハイブリッドなインテリアを実現させている。著書に『tangent 接点ー黒田美津子』(Laboratoryy)のほか『HAPPY STYLE a to z』(ギャップ出版)、『ずっと美しい人のインテリア』(集英社)などがある。
www.Laboratoryy.com



新刊紹介:『tangentー 接点』
インテリアスタイリストとして活躍する黒田美津子の家に残されてきた、明治から大正、昭和にかけて3世代の女たちが身に着けてきたふだん着の着物たち。桐箪笥の引き出しにひっそりと収められてきた着物には吉祥、穢れに対する考えや生活様式など、多くの物語が秘められています。その中からインテリア業界に長くかかわる著者が“デザイン”という視点で87点を選び、すべて撮り下ろしで撮影。今も新鮮に感じる大胆かつ美しい意匠は、それぞれの時代を生きてきた女たちの、特別ではない日常の景色です。一枚の布に込められた日本の文化と人、時間、デザインとの接点。ごく普通の生活のそばにいた着物から見る、デザイン・アートブックになります。

撮影:太田 隆生

2020年9月15日 初版発行
仕様:カラー印刷/コデックス装
サイズ:縦 220×横 154mm (A5 変形)
頁数:224ページ
定価:6,800円(税別)
撮影:太田 隆生
印刷:株式会社サンエムカラー
発行:株式会社 Laboratoryy
※本書は日英バイリンガルです
※取扱いは、代官山 蔦屋書店、BIBLIOPHILE、Laboratoryy(info@laboratoryy.com)ほか、マスターウォールオンラインショップ

『tangentー接点』刊行記念
〈つないで活かす、暮らし〉POPUP STORE 2020年12月28日(月)~2021年1月25日(月)
代官山 蔦屋書店1号館1階にて開催予定
代官山 蔦屋書店 03‐3770‐2525(代表番号)

文:Miki Usui
黒田さん撮影:Taiki Okuda「マスターウォール青山」にて撮影